



鉄道の魅力と言えば車窓の風景が、真っ先に思い浮かぶ。
遅すぎず早すぎず、絶妙な時間で流れゆくパノラマ風景は、他のどの乗り物にもない。
最近、観た映画の中に印象的な車窓シーンがあった。タイトルは『明日へのチケット』。
三人のカンヌ映画祭受賞監督による共同作品で、オーストリア・インスブルックからイタリア・ローマまでの列車内で起こる三つのストーリーをオムニバスにしたもの。その物語の一つに初老の大学教授が登場する。
彼は出張先のオーストリアからローマに戻る際に、飛行機が欠航になったため、仕事先の企業の女性秘書に便宜を図ってもらい、この列車に乗ることになる。駅で彼女からチケットを受け取り、出発を待つ間、彼は彼女に惹かれていく…。
そして、車内で一人きりになった彼は、彼女への想いに気づき、メールを書こうとするのだが、上手く言葉が続けられず、景色の流れる車窓へと視線を向ける。そこで映るのは、ヨーロッパらしい風景…。
だが、この映画で印象的だったのはこの風景ではなく、車窓に映る大学教授の姿。彼の姿は、物悲しくもあり優美でもあった。そこでふと、鉄道の魅力は車窓に映る”景色“ではなく、車窓に映る”自分自身“にあるのではと感じた。これまでを見つめ直す時間として…。